Interview

SHOWAISM〜私のストーリー〜

悩みを活力に変えて
―日本の伝統調味料”みそ”の魅力を発信

実践料理研究家・みそ探訪家
岩木みさきさん

短期大学部
食物科学科
2009年卒業

中高時代の悩みが今の仕事に繋がりました

中学生の頃、友達との会話の中で、「体重が50キロいったらマズよね」という言葉を耳にしました。当時の私は、身長165㎝以上あって体重46キロ。今ならその身長で50キロは細身だと理解できるのですが、知識のなかった私は、“自分は太っている”と思い込んでしまったんです。そして必要もないのに無理なダイエットを決行。対人関係などでの悩みも重なって、拒食症気味にまでなったのですが、拒食が回復に向かうと、反動で過食気味に…。拒食と過食を繰り返すうち、当然ですが肌も荒れてしまいました。

高校生の頃読んでいたファッション誌や皮膚科の先生が書かれた本などに、「肌には食事が重要」という情報を見つけました。そこで、当時の食生活を見直し、まずは、おやつをプチトマトにする、食事ではキャベツやもやしなどヘルシーな食材を積極的に食べることにする、などの簡単なことから始めてみました。すると、それだけで肌荒れが徐々に治ったんです。肌荒れが落ち着いて、大きく変わったのは自分のメンタル面。ネガティブ思考で何事にも自信が持てず、不安な気持ちでいっぱいだったことが嘘だったように、気持ちが落ち着いたんです。メイクを楽しむこともできるようになり、何事にもポジティブに、自信をもって取り組めるようになりました。

「食事ってスゴい!」この感動を伝える仕事をしたいと思いました

食事を変えたら肌の状態も変わった。これは高校生だった私の価値観を大きく変える出来事でした。高校卒業後の進路について考えたとき、私の価値観を大きく変えた「食」を一生の仕事にしていきたい、この感動を多くの人に伝えたいと思ったんです。

食にはすばらしい力があることを伝えることができる職業を考えたときに、栄養士の資格を取りたいと思い、昭和女子大学短期大学部食物科学科への進学を考えました。また卒業後は、数年間働いたら独立し、料理教室を開いたり、雑誌でレシピを紹介する企画に携わりたいというのが当時描いていたキャリアイメージでした。そのキャリアイメージをもとに、学生生活は授業を選択していたように思います。食材が持つ栄養素について知ることができる「食品学」や「調理実習」の授業はとくに勉強になりました。独学で美容にいい食材をまとめて、スクラップブックを作っていたので、その正解やヒントを授業から得られることがとても楽しかったんです。

独立後に生かせるとの思いから、テーブルコーディネートについて学べる授業も積極的に受講していました。「美味しさは8割が見た目で決まる」とも言われているように、コーディネート次第で食材や料理をより美味しく魅せることができる。同じ料理でも選ぶお皿やカトラリー、花などが重要だと痛感。そこで卒業論文のテーマもテーブルコーディネートにしました。


  • 当時の卒業論文

  • 考察で使用した大学の食器(調理実習室で)

キャリアプランどおり就職、そして独立を果たす

短大卒業後は、病院に栄養士として就職。もともとは料理教室に就職しようと思っていたのですが、担任の蕨迫先生に、自分のキャリアプランを相談したところ、新卒だからこそ経験できることや学べることがある、栄養士としての基本が学べるから病院勤務はどうかと薦めてくださったのがきっかけでした。朝4時30分から朝食、昼食を作り、シフトによっては夕食まで作る日もある。普通食はもちろん、タンパク質や糖質など食事制限のある食事、柔らか食、細かく刻んだ食事など、同じメニューでも十数種類を作らなければいけません。時間と制約の多いなか、栄養士として大量調理の現場を3年間経験し、実践からも栄養の知識を得ました。実務以外にも、仕事のマニュアルの作り方や人間関係の築き方、会社組織についてなど、会社勤めならではのことも学べた、短いけれどとても貴重な時間でした。

独立後は、とにかく実践、体当たりの連続。1年目は、ジムに併設されているスポーツカフェや料理家のアシスタントなど、アルバイトを5つくらい掛け持ちしていました。また、独立して活躍されている栄養士や料理家の方などに自ら営業活動をしたり、ブログからアポイントをとって、ご挨拶に行ったりもしました。料理にまつわる仕事は色々しました。お金を稼ぐという目的だけではなく、「ここではこれを吸収しよう」と目標や目的を常に持って働いていましたね。

独立2年目はいよいよ、高校生の頃に描いたキャリアプランに向けて動き始めました。「撮影があるので、手伝いに来てもらえる?」というお話をいただいて、いくつかの現場に足を運んでいると、出版社の編集部の方から少しずつ企画や連載で指名していただけるようになったんです。わからないこともありましたが、「興味ある?」と聞かれたら「あります、頑張ります!」と即答していたと記憶しています。とにかくがむしゃらでしたね。そうした積み重ねで、それまで一緒にお仕事をした方から他の雑誌のお仕事にも呼んでいただくことも増え、3年目は雑誌関連のお仕事が増えましたね。

振り返れば、独立後最初の5年はアルバイトをしながら、何にでも挑戦する日々でした。今、独立して9年目ですが、ここ2、3年で雑誌の企画の指名をいただいたり、ラジオやテレビの出演依頼が来たり…と、目標としていたことを1つずつ実現できています。20代は、食で肌荒れを改善できたことをきっかけとしてがむしゃらに走ってきましたが、30代を目前にして、今後のキャリアアップについて考えはじめ、「日本伝統の調味料=味噌」にフォーカスすることに決めたんです。

「みそ」の魅力を日本 そして世界へ発信!

日本料理に不可欠な調味料のうち、しょうゆや日本酒は専門家がいらっしゃるのですが、地域によって味が異なる味噌は、専門家が少ないことに気づきました。「全国の味噌を極めるなんて無謀だよ」と色々な方から言われながらも(苦笑)、蔵元を巡り始めました。

蔵元を巡る中で、木桶で作った味噌の仕込み方法は、今は減少傾向にあることを知り、全国に木桶仕込みの味噌が一体どれだけ残っているのかお世話になった蔵元に確認しました。すると、その蔵元ですら実態は分からないという状況。製造している蔵元でも知りえない情報ではありましたが、それ以前に健康な料理を伝えたい、結果的に肌や体がきれいになるという情報を伝えたいと思っていた自分も、その調味料の実態を知らなかったことに気づいて。そこから、使命感のようなスイッチが働いて、「ならば私が調べなくては」と思い立ったんです。

高校生の頃に描いたキャリアプランでは、ファッション雑誌などの料理ページを担当したいと思っていました。でも今は、料理家として、「日本の伝統的な調味料である味噌」を後世に引き継ぐ1人として名前が挙がるようになりたいという目標ができました。日本国内だけでなく、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通して、Japan Vietnam Festivalで味噌のワークショップ講師を担当するため、ベトナムのホーチミンへ。農林水産省の若手官僚の方々へ味噌の講話をしたり、世界に日本のうまみを発信する機関での情報監修の機会をいただいたりもしています。


  • 来場者の方々と

  • ベトナムで味噌食べ比べワークショップを開催したときの様子
    2日間で計120人以上の方に味噌の魅力を伝えた

日々の悩みは、将来の活力になると信じています

木桶仕込みの味噌「ガチみそ®」

訪問した日本各地の味噌蔵は60蔵を超えました。木桶仕込みの味噌を「ガチみそ®」と名付けて、この味噌はこんな食べ方が合うなど、味噌の魅力を伝える活動をしています。2020年2月にはみその情報を分りやすくまとめた「みその教科書」を出版しました。この本はレシピだけでなく、文章も全て自分で書いています。また、主宰する初心者向けの料理教室「misa-kitchen」などで提案する料理は、毎日実践できる=簡単な料理を提案しています。世の中には健康情報や美容情報はあふれていますが、手軽に実践できるものでなければ意味がないと思っているからです。今の経験は、未来の自分にとって何かしら影響を与える。きっと繋がっていると信じて日々を過ごしています。

学生さんにも、たくさん悩んで、たくさん自分と向きあってほしいと思います。きっと、その全てがいつか自分の糧になるはずです。過去の自分に「ありがとう」を、未来の自分に「頑張っていたから大丈夫」と言える今日を過ごしてほしいですね。

私からアドバイスをするなら、大学で学べる時間を大切にしてほしいということ。もちろん料理家として働くうえで、栄養の勉強をしてきたことは強みになっていますが。教養の授業もとてもためになっていると感じています。会った方にはきちんと挨拶をする、そしてお礼状を書く。感謝の気持ちを忘れない。学生時代は何の気なしに聞いていたことでしたが、こういった行動が”自分自身”を高めていくのだと思います。

岩木 みさき さん

(いわき・みさき)

実践料理研究家
みそ探訪家

実践料理研究家 岩木みさき オフィシャルサイト
https://www.misa-kitchen.jp/
実践料理研究家 岩木みさきのみそ探訪記
https://misotan.jp/

2009年、昭和女子大学短期大学部*食物科学科卒業後、栄養士委託会社へ就職し、3年間病院勤務後、独立。
“日々の中で実践出来ることが健康につながる”と考え“生産と消費のサイクルを紡ぐ”をテーマに、日本各地の現地取材、レシピ考案・撮影、ラジオやTV等のメディアにも出演。料理教室misa-kitchenを主催。講演やイベント含む料理教室講師回数は1350回を超える。
“みそ”に魅せられ各地のみそ蔵を探訪。木桶仕込みのみそを「ガチみそ®」と名付け、日本の伝統調味料を沢山の方の方へ伝えたいと活動中。
2020年2月3日「みその教科書」出版。

*昭和女子大学短期大学部は2014年3月に廃止しています。

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